2012年12月12日水曜日

火砕流に立ち向かう武人のドラマ

先日、群馬県渋川市の遺跡で、古墳時代の鎧を身につけた男性の人骨が発見された
というニュースがありました。
榛名山の北東9キロの地点。
榛名山が噴火した際の火砕流に飲み込まれた状態で、榛名山の方向へ、ひざを折って
うつぶせで倒れていたそうです。

一般的に古墳時代の遺物の多くは古墳、つまりお墓の副葬品として出土する場合が
多いですが、今回は非常に珍しいケースです。
出土した小札甲(こざねよろい)というのは、たくさんの細長い鉄板を革ひもでつな
ぎあわせた鎧で、かない身分の高い人が着用していたと想像されます。
つまり、以前に歴史チャンネルでも触れた「毛」の国の有力者です。

榛名山は西暦500年前後に二回の大噴火を起こしています。
大量の火砕流と軽石が榛名山東方へ噴出し、利根川を越えて10キロも離れた群馬県
中央部に甚大な被害を与えました。
イタリアのポンペイのように、村全体が噴火によって埋もれてしまった地域がたく
さんあったようです。

鎧を着た武人は火砕流を正面から受け止める状態で亡くなったようです。
はるか彼方から襲い掛かってくる火砕流に対して、重厚な鎧を身につけていたその
人は何をしていたのか。

付近では幼児の頭骨と鉄の鏃が発見されたそうです。
山の怒りを静めるため、よろいを着て祈りの儀式を行っていたとか、幼児を抱いて
避難する途中だったとか、いろいろな推測がされています。
広大で豊かな毛の国の大地が埋もれてゆく光景を見ながら、この人は何を思った
でしょう。


(日野 孝次朗)