2012年4月25日水曜日

不動産賃料と景気

企業にとっての一番の固定費といえば、一般的には「賃料」だと思います。

「今よりももっと賃料を安くできれば・・・」というご相談をしばしば頂きます。
賃料に関しては、その時点での借り手と貸し手の力関係や個別の事情により決まる部分もありますが、賃料自体が景気に対して遅行性を示す指標になっている部分も見逃せないポイントです。
つまり景気が上向いてくれば、企業のオフィス拡張等による需要が増え、賃料の上昇傾向と空室率の低下傾向になるのが一般的です。
逆に景気が下落傾向にある場合には、オフィス移転需要は減るか、もしくは縮小のための移転が増えてきます。空室率に関しては通常は増加傾向となります(特に大規模物件)。
以下に、1月1日時点の、東京三区(千代田区、中央区、港区)の賃料(共益費別)及び空室率を列記いたします(データは三幸エステート株式会社様より)。


〇都心三区 賃料(共益費別)、空室率
 ・2012.1      12,454円/坪、7.06%
・2011.1(1年前) 12,977円/坪、7.74%
 ・2010.1(2年前) 13,840円/坪、7.28%
 ・2009.1(3年前、前年9月にリーマンショック発生) 15,139円/坪、3.67%
 ・2008.1(4年前、リーマンショック前) 14,744円/坪、1.77%
 ・2007.1(5年前) 13,425円/坪、2.04%
 ・2002.1(10年前、いわゆるバブル後の「失われた10年」末期) 14,236円/坪、4.95%


上記を見ていただくと、1年前と比較して空室率の改善が見て取れます。ただし賃料は下がっているため、値頃感によるオフィス移転需要の増加と思われます。まだ景気の本格回復とは言い難い状況だと感じます。
ここで過去からさかのぼってみますが、2002年の「失われた10年」からじりじりと下落傾向が続きます。このあと、2007年になると賃料の上昇と空室率の下落傾向となってきます。この数か月前より「ミニバブル」と言われ景気が上向き始めていた頃でした。
一番賃料が高くなっているのが、リーマンショック後の2009年。この後2月以降は急速に下落傾向となっており、ミニバブルの崩壊による景気悪化の遅行指標となっていることが改めて実証されたことになります。
ところで、空室率ですが、リーマンショック後は格段に上昇しています(概ね7%台)。これには単なる景気減退だけでなく、昨今の大規模オフィスビル建設ラッシュによる賃貸延床面積の急増が大きな要因となっているものと考えられます。
このように、賃料は景気を映す鏡となっており、契約当時及び現在の経済状況を把握することで、賃料水準を検証することが可能な場合があります。また、空室率も賃料削減の余地を探る上で欠かせない要素となりますので、ぜひ一度お調べになってみると良いかと思います。

不動産鑑定士 藤田勝寛