2011年7月20日水曜日

中国新幹線の特許問題はどうなっているの?

中国企業が新幹線に関する技術を日本やアメリカ等に特許出願したことが話題となっています。
報道されている内容からこの問題を検討してみます。

特許を得るには、発明を各国特許庁に出願して審査官に新規性や進歩性があるか否か等を
審査してもらう必要があります。
また、出願から一定期間経過しなければ出願した発明は公開されません。
殆どの国がこのような制度を採用しています。

中国企業は中国新幹線の技術について米国や欧州等に特許出願したことを表明し、これに
対して、マスコミは、川崎重工の技術を模倣した発明を出願するのは問題だというような報道を
しています。
その一方、川崎重工は、中国側の契約違反について言及しているものの、特許出願については
積極的にコメントしていません。
皆さんには、マスコミ報道と川崎重工のコメントとの間には、ずいぶん温度差があるように
思えるのではないでしょうか。

川崎重工が発明についてコメントしていないのは、特許出願の事実はあるものの、その発明の
内容が公開されていないため、一体どのような発明が出願されたのか判らないからでしょう。
また、技術の程度はどうあれ、川崎重工から導入した技術とは異なる技術を出願しているはずですから、模倣技術ではない可能性もあります。
いずれにせよ、蓋を開けてみないと判らないことです。

実は、他社の公知技術に改良を加えた技術内容を特許出願することは、一般的に行われている
ことです。
また、他社の技術の関連技術を特許で包囲するような作戦も、特許の世界では一般的です。
ですから、一般論としては、中国企業が既存の技術を改良した技術を特許出願することについて
何ら非難することはできないのです。

問題となりそうなのは、川崎重工側がコメントしているように、技術提供に関する契約に違反するかどうかです。
報道によれば、川崎重工側と中国側との契約内容は、提供した技術は中国国内での使用に
限るとのこと。
そうなると、川崎重工の技術を他国で使用する結果になるような行為は契約違反となります。
中国側が中国新幹線を海外展開するにあたり、川崎重工の技術を用いることなく、今回出願した
特許技術のみを用いて中国新幹線を海外展開するのは、現実問題として難しいのでは
ないでしょうか。
そうなると、川崎重工との契約違反は避けられないように思えます。

一方、海外で特許訴訟を起こすには、その国で特許権を持っていなければなりませんが、
川崎重工は海外特許を多くは保有していないと報道されています。
そうなると、米国や欧州での特許戦略は難しいものとなりそうです。
つまり、特許により受注活動を有利に進めたり、特許訴訟により中国企業を抑えることが
難しくなるということです。

今回の事態について、マスコミは川崎重工の知財戦略に問題があるかのように報道しています。
その多くは、なぜ新幹線の関連技術を海外で権利化していないのかというところです。
しかし、海外出願には莫大な費用と手間が掛かりますので、開発過程で発生する発明の全てを
海外で権利化するのは現実的ではないのです。
他の企業でも事情は同じようなものです。
そうはいっても、重要な発明については海外で権利化されていることが期待されます。
インフラ輸出は我が国にとって大変重要なことですから、川崎重工さんには本当に頑張って
ほしいところです。

今回の件でマスコミに問題提起して欲しいのは、中国が知的財産権を武器に自国技術の
売り込み攻勢をかけてきたことです。
日本国内では中国企業の模倣状況ばかりを報道していますが、その一方で有力な
中国企業は、既に多くの技術を国際出願して特許を取得している事実があるのです。
この5年以内に、中国企業による他国での特許取得数は飛躍的に増加するでしょう。
そうなると、日系企業は、各国で中国企業から特許訴訟を起こされるリスクが高くなります。
中小企業においては、中国企業からの特許訴訟により経営を危うくするケースも出てくるかも
しれません。
知的財産分野で日本企業が攻撃から防御に転じるのは時間の問題といえるでしょう。

松下国際特許事務所 弁理士 松下恵三
http://www.matsu-pat.com/index.html