2011年6月1日水曜日

臨機応変な対応

5月27日に発生した、北海道・占冠村のJR石勝線で特急列車がトンネル内
で脱線し全焼した事故では、乗員乗客の全員が避難することができ、死亡者が
でるようなことがなかったのは、不幸中の幸いでした。

列車のトンネル火災は、1972年11月6日に発生した大阪発青森行きの
急行「きたぐに」、が全長13,870メートルの北陸トンネル内で列車火災が
発生し、30人もの死者を出した北陸トンネル火災事故が有名です。

この事故以来、トンネル内で発生した火災では列車を止めることなく、トンネルを
抜け出すことがマニュアル化されました。今回の事故では、これまでの報道の
範囲内ではありますが、車掌が社内の煙を確認した際に運転士に連絡をして停止
したとのことですが、なぜここで火災の可能性があるにも関わらず列車を止めた
のかが、一見不可解です。

列車運行中の非常時には、トンネル内での火災などを除いては、基本的には列車を
すぐに停車させることになっています。ですから今回のように、乗務員が当初は
「火災」と認識していないような場合には、マニュアル上では停止させるのが正しい
ということになってしまいます。

しかも、火災ではなく車両のどこかから煙が出ているということで、運転士からの
連絡を受けた運転指令は、ドアを開けることで煙が車内に充満するおそれがあった
ので乗客を下車させずに車内で待機するように指示をしました。停車後に、火災を
知らせる警報が出たものの、乗務員はこの時点でもまだ火災という認識はなかった
ようです。
結局、乗客は独自の判断で避難しましたが、少しでも遅れれば死者が出かねない
事故でした。

基本的にはマニュアルに従うことが大切ですが、現場では時としてその場での
判断が必要となることがあります。1972年の北陸トンネルの事故の数年前にも、
同じ北陸トンネル内で、火災事故がありました。このときには、運転士は気転を
きかせてトンネルを抜けてから列車を止めたので、死者を出すことはなかった
のですが、当時の「火災時には列車をその場で停車させる」という規定に違反した
ということで、運転士は処分を受けることになったのです。

マニュアル通りの対処でいいのか、臨機応変な対応が求められるのかは、その
時点でなければ判断できません。しかし、現場で発生している危機に対しては、
マニュアル通りではない臨機応変な対応を認めなければ、事態を更に悪化させる
こともあるのです。

(Masanori Imamura)