2008年7月21日月曜日

バービーとブラッツという人形が兄弟という話(二重譲渡と法人著作)

バービー人形というのは聞いたことがありますが、ブラッツ人形というのもあったのですね。
バービーがマテル社で、ブラッツがMGA社の製品だそうです。
ここで、デザイナーという人が登場します。
バービーとブラッツ、両方のデザインを制作した人だということがわかって、それで「兄弟」だったということのようです。

このデザイナーさんはマテル社との独占契約期間中に、MGA社から注文を受けたか、またはすでに制作済みのデザインを譲渡したのかわかりませんが、とにかく「ブラッツ」に関する権利をMGAに渡してしまい、そのデザインが「ブラッツ」として販売されるにいたったようです。
そこでマテル社がMGAに著作権侵害を主張したということなのでしょうか。

こういったことは日本でもありえることなので、日本の著作権法に置き換えて見てみましょう。
デザイナーと発注者との関係には二通りありえます。
著作権法第15条の法人著作の規定がありますので、

①社内のおかかえデザイナーの場合 → 著作者は法人(雇い主)
②外部デザイナーの場合 → 著作者はデザイナー

ニュース記事から察すると、「独占契約期間中」とありますので、たぶん外部デザイナーによる制作だったのでしょう。
問題はこの、「独占契約」の中身です。
これが「期間中に制作されたすべてのデザインの著作権をマテル社に譲渡する」という意味なのかどうかわかりませんが、とりあえずそのように仮定して考えます。

独占契約はマテル社とデザイナーの<権利と義務>について定めたものですから、もしMGAがこの独占契約の存在を知らなかったのであれば事情は大きく異なったと思いますが、そのあたりのことはニュースからはうかがいないです。(これ以上調べる気力がなく・・・)

もし独占契約の存在を知っていて「ブラッツ」の著作権をMGAが譲り受けたのであれば、本来はデザイナーからマテル社に移転していたはずの著作権がMGAにも移転していたことになります。いわゆる「二重譲渡」になります。
この場合、MGA社が先に、文化庁で著作権譲渡登録をしていれば優位に立つでしょう。
逆にマテル社が先に登録していれば、マテル社が優位に立つでしょう。

しかし登録うんぬんの前に、MGA社が独占契約の存在を知っていて、つまりマテル社に損失を与える可能性をわかっていながら著作権譲渡を受けたのであれば、法律用語としての「悪意」があったということになって、もともとMGA社はマテル社に対抗できない、つまり著作権者であると主張できないということとなります。

このように、企業がデザイナーに著作物制作を発注する場合には少々入り組んだ法律知識がからんでくるのですが、実際にはこのような法律問題があまり真剣に受け止められていません。
法人著作の問題は権利帰属と保護期間を決定するうえで重要だし、著作権登録は二重譲渡の危険を避けるうえで重要なのですが、なかなか理解されず利用されてもいない状況です。

企業の現場では、「今売れること」が大事で、「未来の危険」に対してはあまり気遣いされません。
たしかに「売れてこそ」起きるトラブルですから、売れてから考えるのはやむをえないかもしれません。
しかし、そろそろこの順序を入れ替える発想が著作権の分野でも増えてきているのではないかと感じています。

なお、WEBのニュース記事を読んだだけなので、事実関係の真相については少々自信がありません。
あくまで法律関係を考えてみるひとつの仮定としてご理解ください。