2007年8月30日木曜日

チャプリン映画の著作権保護期間

チャプリンの映画の著作権保護期間

8月29日、東京地裁でチャプリンの映画の著作権保護期間について争った裁判の判決がありました。
チャプリンの映画の保護期間がすでに消滅していると解釈した事業者が、無許諾で格安DVDを販売していたところ、当該映画の著作権を持つ外国法人から損害賠償等を求められた事例でした。
争点のひとつに、チャプリンの映画の保護期間計算時点を公表後とするか、チャプリンの死後とするかという問題がありました。

映画「ライムライト」の場合、公開されたのが1952年で、チャプリンが亡くなったのが1977年です。
昭和45年に著作権法が改正される前に施行されていた旧著作権法によると、第6条では団体名義で発行された著作物の著作権は発行のときから30年間継続する旨が定められています。
とすると、映画が公開されてから30年後である1983年までとなり、さらに1970年施行法で50年の適用を受けるので2003年には著作権が消滅していることになります。
ところが映画の公表の際のクレジット表示では、「Written and Directed by CHARLS CHAPLIN 」などのようにチャプリンが映画を制作したと見える記載があるということで、著作権者側(原告)は団体名義での公表を否定し、著作者であるチャプリンの死後から保護期間を計算することを主張しました。
もし死後で計算するのであれば現行著作権法の規定を適用でき、戦時加算を無視しても2022年まで権利が存続することになります。

判決では、クレジット表記が団体名義での発行ではないことを示しており、チャプリン個人による著作であることから死後起算の適用が受けられるので著作権がまだ消滅していない旨を結論付けました。

この事例は著作権保護期間の判断がいかに難しいかを示しています。
公表時のクレジットを明記していてもこのように裁判上の争いになりえます。
現在公表されている著作物のかなりの部分が、このように著作者表記があいまいであるし、著作権についての表示があっても著作者の氏名が表記されていないことがほとんどです。
著作者が誰であるのかが著作権者でさえ知らないということは珍しくありません。
著作者が誰であるのかが証明できないと公表時で起算するしかありません。

このように著作者表示をめぐってのトラブルが今後は増えてゆくと思われますが、判決ではこのように述べています。
「被告らは、パブリックドメインとなった映画の複製、頒布を業として行っていることが認められるが、このような事業を行う者としては、自らが取り扱う映画の著作権の存続期間が満了したものであるかについて、充分調査する義務を負っていると解するのが相当である」
実際に事業者側がどの程度の調査をしていたのかわかりませんが、50年以上前の公表時のクレジットを調査していれば団体名義でないことがわかったはずだということです。
さらに判決では、団体名義で公表された著作物が公表時起算なのは、誰が著作者なのかが特定できなければ死後起算できないからだという意味のことを語られています。
今回の判決ではチャプリンのクレジットが明らかだったので、利用者側が調査義務を怠ったことを問題にしていますが、もし表記があいまいだったなら公表時起算が採用されて、DVD販売は合法と判断されたのではないかと推測します。

いずれにせよ表記の仕方次第で保護期間に何十年もの違いが出てきてしまったということです。

このような事情は現行法でも変りません。
たとえばあるキャラクターを法人が創作し商業利用した場合に、それを職務上創作した社員の名前をクレジットとして表示することはないでしょう。しかしその場合の保護期間は公表時から起算されます。
もし社員の名前で公表しておけば死後起算になります。とはいえ商品として流通させる際に社員名のクレジットはやはり難しいでしょうから、一度さしさわりの無い方法で社員名クレジットを表記して公表し、その証拠を保存した上で商品として流通させるという方法が思いつきます。ほかにもいくつか工夫の方法があります。
職務著作の要件としては最初の公表のクレジットが法人名義であることが要求されているのですから、それをあえて社員名義にしてしまえば法人著作ではなくなり、死後起算での保護が可能となります。
就業規則で職務著作にならないようにすることも可能ですが、全ての著作物について職務著作をあらかじめ否定することは無謀ともいえます。
この場合には、文化庁の登録制度を活用することができます。
ただし、著作者である社員から一切の権利の譲渡を受けた証拠をいちいち保存しておかなければなりません。
今後は保護期間の起算方法でもめることが多くなりはずです。
企業の権利保護の手段として著作権登録の必要性が認識されてくるでしょう。